神の手を持つ外科医『福島孝徳』のような脳外科医に憧れて医学部をめざすも不合格となった私は進学した商科大学で画家をめざすことを決意しました。その時には
「大企業のサラリーマンなど、どこにでもいる無名の人間になりたくない。」
という強い気持ちがありました。
もし大商社の重役などになれても、世間一般の人には名前も知られず何年かに一度の人事で退職していくことになり、空しさを感じるだろうと想像しました。
いわゆる、教育熱心なママや進学校の高校教員がお勧めの進路というものがあります。
有名大学に行って、大企業に就職したりキャリア官僚になって出世をめざす。
起業して富と名声を手に入れる。はたして、それが人生の目標足りうるのか?
この問題は仏教の禅問答と同じです。
ある、後に高僧となった若者が、東大寺だったか名前は忘れましたが、有名なお寺の門を叩いて入門を嘆願したそうです。寺の僧に
「なぜ、入門したいのか?」
と聞かれ
「悟りを開きたいのです!」
と答えたら
「悟りを開いてどうする?」
とさらに聞かれて
「苦しんでる人々を救いたいのです!」
と答えたそうです。
それで
「苦しんでいる人を救ってどうする?」
と返されて、とうとう答に窮してしまったという話です。
例えば初代ロックフェラーのような大富豪をめざしている若者がいたとします。
「なぜ起業をするのか?」
「大金持ちになって豪奢な暮らしをし、政治的な権力を握りたいのです」
「それからどうする。その金で何を買うの?。国を支配した後どうする?」
と聞かれた時に多くの金持ちは答に窮するからこそ、彼らは現代美術を買い漁るのです。
彼らは一様に
『自分は心の中にポッカリ空いたこころの隙間、虚しさを抱えている』
といいます。
村上隆がTVのカンブリア宮殿や著書の『芸術起業論』で言っているように
「コレクターは心を病んでいるんですよ。
僕はそこに呼ばれて彼らが気に入りそうな作品を作る芸者であり太鼓持ちです。」
「マネーとコレクション。ええ金持ちの戯言(ざれごと)と言えばそれまでですがね。」
起業して億万長者になる。独裁的な権力を得る。
ロックフェラー財閥がアメリカの政治を支配しているという人がいます。(
『21世紀の資本主義』倉田稔)
「ロスチャイルド財閥は一時期世界の富の65%を得たと聞いている」と中丸薫さんはいいました。
しかし、それで彼らは何を得られるのか?
ユング心理学者の河合隼雄さんは
「今の世の中、特にアメリカなどではどれぐらい資産を持っているかが注目されます。
金で人の序列をつけるのは偏差値と同じで分かりやすですからねえ。
だから人々は注目します。
だけど、実は金で買えないものの方が重要なんですけどねえ。
結局、その人が何者なのかという事が決定的なことなのです。」
子供も家族も才能も容姿も友情も異性からの恋愛感情も、知性や教養も美術の鑑識眼も豊かで綺麗な自然環境も金と権力では買えませんよね。
結局、ロックフェラーに面談したユングの言ったことが核心をついていると思います。
「ロックフェラーは中身が空っぽな部屋に積まれた金塊にすぎない。
しかし、その金塊も大変な犠牲を払って手に入れたものなのです。」