私がソフトパステルと色鉛筆で描く理由

キアゲハ蝶 パステル画

キアゲハ蝶 紙にパステル

このページでは、なぜ私がソフトパステルと色鉛筆を併用し作品を描くのか?をご説明したいと思います。

 その大きな理由の一つに、パステルはデッサンと描画が一体となっていて、描くと同時に仕上がる事です。

 皆さん、人物などの絵を正確に描くのに鉛筆と、水溶性の絵具や油彩で筆で描くのとどちらが簡単ですか?

 鉛筆ですよね。

 そうであるから、芸大・美大受験のデッサンは鉛筆やコンテ(炭の細いスティック)を使うのですよね。

 コンテの代わりにパステルや色鉛筆を使用することも出来ます。

 さらに乾燥させる時間が一切掛からない。

 ですから、パステルと色鉛筆での制作は、制作時間を大幅に短縮出来るのです。

そして油彩やアクリル絵具よりも細かく繊細に正確に描くのに圧倒的に有利です。

 しかも、下に詳しく説明しました発色が岩絵の具と酷似しており、日本画の絵具特有の色彩の美しさを、日本画の絵具に劣らす出せる事があります。

 これは、オディロン・ルドンやエドガー・ドガがパステルで描くようになった理由の一つであると思います。

 また、私がソフトパステルを利用するようになったのは40歳を越えてからですが、当時、写真のようなアゲハ蝶の絵を描くことに苦心していました。

 そこで閃いたのがパステルです。

 パステルは紙にただ描くだけで、蝶の羽の鱗粉などの質感が見事に実現できます。

 日本人である私にとって油彩は、岡鹿之助や梅原龍三郎ら歴代の著名な日本人画家が悪戦苦闘したように、どうにも制御しきれない画材ですが、パステルは完全に制御できる画材です。

 「一度、これだと決まったバッティングフォームが出来たら、それ一つで徹底的にすべてに対応すること」と日本プロ野球最多安打数のタイトルを持つ張本勲さんは著書の『最強 打撃論』でいっていますが、このパステルと色鉛筆であらゆる画題の作人を描くことで今のスタイルが出来上がったのです。

ルドン、ドガ、ラ・トュ―ル、矢崎千代二しかいない。 歴史的に極めて希少な大画面のパステル画を描いた画家。

 

レオナルドダビンチ礼賛

レオナルドダビンチ礼賛

 大画面のパステル画を描いた巨匠といわれ画家は、長い美術の歴史ではモネやセザンヌ、ルノアールなどが活躍した印象派時代のオディロン・ルドン、踊り子の画家として有名なエドガー・ドガ、16世紀に生きたモーリス・カンタン・ド・ラ・トゥール以外にはいないと思います。

 日本では大正・昭和に生きた矢崎千代二が代表的な作家で日本最初のパステルであるゴンドラパステルを共同開発もしています。

 パステル画家がなぜ少ないのかは、私にもはっきりとは分かりません(笑)。

 むしろ、今はアクリル絵具全盛の現代ですが、なぜ皆パステルと色鉛筆で描かないのか?が不思議です。

 なぜ、私がパステルと色鉛筆で描くのか?

 一番大きな理由は日本画の岩絵具や水干絵具(すいひ)で表現できる、日本美術の鮮やかで繊細で叙情的な色彩を簡単に表せることです。

 ルドンとドガも日本の浮世絵に多大な影響を受けています。

 本江邦夫氏が「天性の才能としか言いようがない天上的色彩」と称したこのルドンの色彩は油絵具では実現しづらいのです。

ドガ 舞台上でのバレエのリハーサル 写真

ドガ 舞台上でのバレエのリハーサル 

さらに、ドガは油絵具の粘性やテカリのある絵肌を嫌っていたようで、ルドンも同じだったのではないでしょうか?

 実は私も40歳になるまでは、油絵具とアクリル絵具、一部岩絵具や水干絵具で描いていましたが、やはり日本人であるのでしょう。
 
 この油や水で絵具を溶いて筆で描くのことは、どうにも制御しきれないのです。

 上のルドンの『レオナルド・ダ・ビンチ 礼賛』の写真をご覧下さい。
 
 実に日本画に似ていますよね。

 実は狩野派や琳派などの日本画の巨匠の絵はもっと地味な色彩なのですが。

 日本美術界の天皇と言われた梅原龍三郎は「ルドンの絵は日本的で非常に美しいものである。売らんかなという精神が感じられず、とても純粋で上品なものだ。」と言っています。(梅原著 天衣無縫より 求龍堂)

 その梅原龍三郎も傑作『北京秋天』を描いた北京滞在の時ぐらいから「油絵具より岩絵具の方が美しく感じる」と岩絵具を使用した日本画に移行しています。

ラ・トュール ポンパドール夫人  パステル

ラ・トュール ポンパドール夫人 パステル

 実はルドンの生きた時代のパリに、東の横山大観、西の竹内栖鳳と称された竹内栖鳳と、彼が率いた京都画壇の菊池契月土田麦僊小野竹喬がパリに行ってルドンのパステル画やデッサンを何枚も購入して持ち帰っています。

 当時はまだルドンはパリでも評価が定まっていなかった時で、美術学者の本江邦夫さんは「驚くべき先見の明である」と評しています。
 
 京都画壇の画家達はヨーロッパの画家たちの絵に直面し、次の時代の日本画を模索して苦しんでいたようで、それを打開するヒントが「日本画のような色彩で自由に抽象的な線を描いているルドン作品」だったのではないか?と考えられています。

 どうですか?日本と西洋の色彩、美術の融合・統合をめざすという目標からすると、紙にパステルで描くことは非常に理にかなっているのです。

 むしろ、これ以上に適した画材はない。ただ、その堅牢度が著しく劣るため特に大画面作品の制作には向かないの欠点です。

 皆さん、ルドン、ドガ、ラ・トゥール、矢崎千代二以外に大画面のパステル画を描いた巨匠がいますか?

 いませんよね。

 私の描く比較的大サイズのパステル画がいかに美術史的にも、そして現代でも希少なものなのか?お分かりいただけ