3部作の小説を書く・・・ユングのアニマ理論を一人で思いつく

 大学2年生の時に、兎に角大学生活から抜け出したいのと、卒業後に一サラリーマンとして暮らすことにプライドが許さず、絵画より小説のほうが制作しやすいとその当時は思えたので、小説家になろうと3部作の小説を書きました。

 まずは小説家として有名になり、その名声を利用して画家になろうという思惑でした。

 題名は『疑惑・恋人・女神』。(注1)

 内容は、現代に生まれた救世主である大学生が、次々と魅力的な女性と交際し最後に死後の世界でも妻だった女神のような女と結婚するというもの(注2)

 制作している途中で、とうとう妄想に囚われて、一時期、現実と妄想の区別がつかない精神状態になりました。
 その状況は夏休みにある事件があり、自分が妄想に囚われている事に気付き、正常な心理に戻りました。

 この事は、自分の精神の正常性へのプライドを酷く傷つけ、自分は精神分裂病、あるいは境界例ではないか?と強く疑うようになりました。
それで、その後何年もユング心理学や精神医学の専門書、各種芸術書を数多く読み漁り自分で精神の病を治そうとしました。

 この精神状態を一言で表すと『創造の病』でしょう。

 その結果分かった事は、私が思いついた小説の筋書きは、ユングのアニマ理論と驚くべきことにまったく同じだったのです(注2)
ルドン キプロス写真 実際には私の精神は全くもって正常だったのですが、それが分かったのは相当な年月が経った後で、知り合った精神科医に当時の事を相談してはっきりしたのです。

 精神病の特徴は病識なの無さです。

「自分は精神病ではないか?」と疑っている精神分裂病患者などいません。

  しかし、この時の人間の精神活動・深層心理についての深い探求は、結果として『人間の心理、特に深い深層心理を表現する』という現在の私の制作能力の基盤を作り上げたのです

 それは、高階 秀爾がルドンを「魂の神秘を探求し表現した画家」と形容したのとまったく同じ意味です

 私の芸術の世界の中心には、『無意識の世界』、『人間の深層心理の世界』と文学性があります。

ユング心理学の核心 個性化の過程は自己実現のことです。

フロイトとユング これらの経験かた、ユング心理学は私の思想の中心となりました。

 私はユング心理学を日本に持ち込んだ河合隼雄京都大学教授と同じくユンギアンであると言って良いでしょう。

 ユング心理学の中心概念は『個性化の過程』です。

 個性化の過程とは、人は皆持って生まれた才能を十全に開花させるべく生きようとする。

 その努力が実った人生では、人間は自分の長所と能力の限界を認識するというものです。

 この思想を自己実現と言います。

 私も大学の『職業指導』という講義で

 「職業指導とは生徒がいかに自己実現を図れるかを考え援助することである」

 と習いました。

三大精神分析医 フロイト・ユング・アドラー 

 ユング心理学は精神分析ですが、精神分析はジグムント・フロイトが始め、その弟子にユングアドラーがいます。

 この3人が精神分析の3巨匠と言って良いでしょう。

 「あらゆる精神病や神経症の原因は性的な欲求不満である」というフロイトの理論。

 これは現代の精神医学でも今なお有効性を保っています。

 そして『人間は劣等感を感じる動物で、生涯を掛けて優越感を得ようと努力する存在である』というアドラー。

 これは現代社会で生き抜くための一種のノウハウとして根強い研究者とファンがいます。

 ユングは『内向的・外向的』という概念を提唱した事でも名高いです。

個性化の過程に異議を唱える斎藤環と浅田彰

構造と力 さて、ユングの個性化の過程に激しく異を唱える人も少なくありません。

 一人は浅田彰京都造形大学教授

 80年代に『構造と力』という本を世に出し、新進気鋭の若手学者として筑紫哲也が編集長の『朝日ジャーナル』によって「チベットのモーツァルト」でデビューした中沢新一とともに売り出され、『新人類』というネーミングで呼ばれ一時代を築いた人です。

 彼は「個性化の過程、自己実現の象徴であるウルボロス=球面体のイメージは幻想に過ぎない。」と言っています。

 次に『引きこもりの治療』について著名な精神科医の斎藤環さん。

引きこもり救出マニュアル 斎藤さんはフロイト派でさらに新フロイト派の思想家ジャック・ラカンの信望者です。

 斎藤さんは

 「引きこもる若者は心の中心部分に素質・才能の欠如を抱えている。

  このような若者に長所を十全に伸ばし自己実現せよというのは

  治療をする上でも間違いである。」
 
 と言っています。

 これは日々の診療の実感としてそうでしょう。

 しかし、才能に溢れた若者、天才的な素質を持った若者についても欠如に眼を向けて対峙すべきでしょうか?

 少なくともこの場合はユング心理学のアプローチの方が適切だと思います。

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