世界と日本のギャラリーの格と実力のバロメーターって何?No2。欧米の商業画廊編。
ダミアンハースト ガゴシアンでの新規個展

 今日は。

 横田です。札幌は雪がまったくありません。

 こんなことは初めてですね。地球温暖化のせいでしょう。

 実は私が小さい頃は道南の函館にもたくさん雪が降ったのですが、もう10数年来、雪が冬を通して積もらなくなったようです。

 データが示す通り、その頃には温暖化が実はもう深刻だったんですね。

 さて、前回は日本の現代美術ギャラリーの格についてお話しました。

 今回は欧米の画廊編です。

頂点に立つガゴシアン、急追するDavid ZwirnerとHasuser & Wirth

 現代美術のビジネスでこの20年間、欧米でトップに君臨してきたギャラリーがガゴシアンです。

 実は発音はガゴシアンではなくガゴシャンに近いです。

 現在、村上隆や奈良美智もガゴシアンの契約アーティストになっていますが、ガゴシアンらしいエピソードとしては、ここ30年欧米でNo1アーティストとして君臨してきたイギリスのダミアン・ハーストを、その育ての親のようなコレクターで広告会社のオーナー、チャールズ・サーチから引き抜き、サーチらに『人喰いザメ』と恐れられるようになったことです。

 前回お話したアート・バーゼル・マイアミビーチに出店した日本の有名ギャラリストに直接伺ったお話では

ダミアンハースト 巨大彫刻の図
「Treasures from the WRECK of the Unbelievable」 by Damien Hirst

 「ガゴシャンなんてかないませんよ。

 あのダミアン・ハーストの海から引き揚げたと称する巨大な像も観たけど、制作費も億単位ですよ。

 売上も一日で億単位。凄いよねえ。規模が違う!」

とのことです。

 私がラリー・ガゴシアンを知ったのは2005年に出版された千住博の『ニューヨーク美術案内』(光文社新書)という本の中で、千住さんがインタビューアをニューヨークの画廊廻りだったからです。

 ラリー・ガゴシアンは、最初はラッセンやヒロヤマガタ、笹倉鉄平のオフセット印刷のようなプリントを販売することから始めたそうですが、何といってもあの戦後に世界的なスターとなったアメリカのアーティストジャスパー・ジョーンズやフランク・ステラを売り出したレオ・キャステリ・ギャラリーで修行したことが転機になったようです。

 ガゴシアンはユダヤ人ではなくアルメニア系といれれていますが、ガゴシアンを急追して台頭してき『David Zwirne(デビッド・ツヴィルナー)』はドイツ人で母親がユダヤ系、『Hasuser & Wirth』を経営するイワン&マヌエラ・ワース夫妻はスイス人でユダヤ系でなく 『Pace』創業者のアーネ・グリムシャー (Arne Glimcher)はユダヤ系で、Paceと一時期巨大な共同事業を行っていた名門ウィルデンシュタイン社のトップはユダヤ系です。

ラリーガゴシアン 顔写真

 アメリカにおいて戦後現代アートの中心が確立される過程で、抽象表現主義を理論的に支えた二人の批評家、クレメント・グリーンバーグとハロルド・ローゼンバーグはいずれもユダヤ系でした。

 グリーンバーグは1940年代からジャクソン・ポロックらを積極的に評価し、アメリカ抽象表現主義を国際的な潮流として位置づける上で決定的な役割を果たしました。

 ローゼンバーグもまた「アクション・ペインティング」などの概念を打ち出し、同じく抽象表現主義の理論的支柱となりました。

 画廊主のレオ・キャステリもユダヤ系であり、彼の画廊は1950年代後半以降、アメリカ前衛美術の重要な発表の場となりました。

 ただし、グリーンバーグがポロックを最初に推した時期はキャステリ画廊の台頭より前であり、両者の関係は単純な「契約アーティストの援護」という図式では語りきれません。

 コレクターの側では、エリ・ブロード(Eli Broad)、チャールズ・サッチ(Charles Saatchi)、ジョゼ・ムグラビ(José Mugrabi)らがいずれも現代美術の重要な購入者として知られています。

 オークションハウスのサザビーズ元会長アルフレッド・タウブマン(Alfred Taubman)もユダヤ系です。

 フランスの実業家フランソワ・ピノーは、グッチグループ(現ケリング)やクリスティーズのオーナーとしても知られ、大規模な美術コレクションを築いていますが、「世界一のコレクター」と断じるよりは「世界有数のコレクターの一人」と表現するのが妥当です。

 美術館関係者では、テート・ギャラリー元館長のニコラス・セロータもユダヤ系の出自を持ち、英国現代美術の振興に大きな役割を果たしました。

 ソロモン・R・グッケンハイムはグッケンハイム美術館の設立者であり、初期にはヨーロッパの抽象美術を中心に収集・支援しましたが、アメリカ抽象表現主義の受容にも間接的に寄与しました。

 1990年代以降、ロサンゼルス現代美術館(MOCA)館長を務めたジェフリー・デッチ(Jeffrey Deitch)もユダヤ系で、アートビジネスと現代美術の交差点で大きな影響力を持った人物として知られています。

 アーティストでは、シンディ・シャーマン、ジム・ダイン、マーク・ロスコ(Mark Rothko)、バーネット・ニューマン、ロイ・リキテンスタイン(Roy Lichtenstein)、ジョージ・シーガル(George Segal)など、ユダヤ系の出自を持つ作家が多数含まれています。

欧米アート界の構造と歴史的背景──抽象表現主義の台頭と「100人村」の権威

19〜20世紀の欧米アート市場は、金融・出版・批評のネットワークを持つ都市部のエリート層が中心となって発展し、その中にはユダヤ系のコレクターやギャラリストも多く含まれていました。これは歴史的に都市部への集中や教育重視の文化が影響しており、特定の民族が「世界の富を支配している」という単純な構図ではありません。

抽象表現主義がアメリカで台頭した背景には、第二次世界大戦後の文化政策、批評家の理論、そして美術市場の拡大が複雑に絡み合っています。クレメント・グリーンバーグやハロルド・ローゼンバーグが「平面性」を強調したことは確かですが、その理論は後世から見ると強引であったという批判も根強くあります。

『巨大化する現代アートビジネス』(紀伊國屋書店)では、欧米アート界が限られたトップギャラリー、批評家、コレクターによって形成される「100人村」のような構造を持つことが指摘されています。村上隆や奈良美智がこの構造の中で評価を獲得してきた一方で、日本的な文脈や土着性を強く持つ作家が欧米で評価されにくい傾向があることも事実です。

しかし近年は、ネットを通じてギャラリーを介さずに作品を販売できる環境が整い、オンラインで人気を得る作家と伝統的ギャラリーに所属する作家が二極化しています。この変化は「100人村」の権威を揺るがしつつあります。

路上芸術で世界的な人気を持つバンクシーは、この既存のアート権威に対して強い批判を続けており、従来のアート市場とは異なる価値観を提示しています。

 
 

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