今、新刊が出るのを楽しみにしているのが『ブルーピリオド』というコミックです。
『鬼滅の刃』の全巻を購入したのですが、どの巻もあまりにのむごい殺戮ばかりのなので、読み進める手が止まってしまいましたのですが、代わりにこのコミックを興味深く読んでいます。
これは日本一倍率の高い『東京芸大 油画科』の受験と入学後の若者たちのもの語りです。
実は、私はまったくその気がなかったわけではないのですが、本気で東京芸大や武蔵野美大・多摩美術大学などへの進学を考えた事はありません。
とにかく進みたかったのが医学部で、結局受験したのが今学長がコロナ対応などの不祥事で揺れている旭川医科大学です。
村上隆や会田誠のような芸大進学者の人は「東京芸大しかない。どうしても進学したい」と芸大受験予備校に通ったわけですが、高校時代の私は芸大受験に予備校に通う必要があるなどということも知りませんでした。
『ブルーピリオド』の中に高橋世田介くん(右上表紙の人物)という学生が出てきます。
主人公の矢口八虎くんより、この世田介くんの方が高校時代の私によく似ていて、彼の振る舞いには私も笑ってしまいます。
絵の天才少年だった私は、高校の美術でもやはりデッサンも美術選択クラスで1,2を競うぐらいに得意で、級友からも
「横田は東京芸大進学に決めてるんだよな!}
と言われていました。
そんな事はまったく無かったわけですが。
ただもう一人、同じ美術選択のクラスに私もかなわない飛びぬけてデッサンの得意な級友がいて、彼はお父さんが有名な心臓外科医で彼も北海道大学医学部に進学して、今北海道大学の整形外科教授になっています。
毎年、芸大に現役で受かる5名ほどの学生には高校時代数学が抜群に得意だった人が多いというエピソードも納得できます。
世田介くんの特徴は
『絵が生まれながらに上手い。だからといって絵に強い興味があって、画家になることへの強い情熱を持っている』わけではないという事なのです。
東京画廊の山本豊津さんの最初に会って作品の写真を見せた時に
「絵がすきなんですね」
と言われ
「いえ、好きではありません。ただ得意なだけです。好きなのは音楽の方です」
と答えました。
山本「では、なぜ画家をめざすの?」
横田「自分はマチスやカンディンスキーのような巨匠になれると思うからです」
山本「でも梅原龍三郎やカンディンスキーの作品が好きで、毎日絵の事を考え、全てを絵から学んできたんでしょう。
それは、やっぱり好きなんですよ。」
と納得されてしまいました。
芸大・美大卒が持つ想像・発想したものを自由自在に作品に出来る制作技術の高さ
芸大卒・美大卒と私のような独学の人間との圧倒的な差はデッサン力・制作スキルです。
それと東京・さらにその美術の一つの中心である芸大・美大にいることで入ってくる情報と得られる人脈の差です。
この『想像したもの、空想したものを自由自在に描画できる』という技量の無さには本当に苦労しました。
結局、その差はコンピュータの支援によって克服できましたが。(右上写真は3次元フィギアソフト Poser)
芸大受験と合格によってこの技量を身に付けていく彼らの日常生活。
半ば強制的に絵を描かされる中で身体に叩き込まれている作品制作力。
それらがかつての私にはなかったからこそ、その生活を垣間見れる『ブルーピリオッド』というコミックは興味が尽きないのです。
特に今「絵画とは何か?芸術とは何か?」という強い疑問と自己の才能への懐疑を感じ始めた世田介くんに、大学時代の私が重なり、次の展開が待ち遠しいのです。
最後に、この作品はまもなく映画になるそうですが、執筆者の山口つばささんの、さすがは東京芸大油画科卒と実感させられる画像の線の美しさも素晴らしいと思っています。
まさか、芸大生が世の脚光を浴びる時代が来るとは。
まさに、諸行無常ですねえ。