村上隆はなぜ欧米で高く評価されるのか? 

【前編】では、村上隆や奈良美智の作品が欧米で高く評価される理由を解説しました。

 後編では、はたしてその評価が正しいのか?について解説します。

 前回、作品の評価を決めるのは欧米の白人である、ギャラリスト・購入アドバイザー・キュレーター、美術館学芸員、大富豪のコレクターなどであると話しましたね。

巨大化する現代アートビジネス その頂点にフランソワ・アンリ・ピノーなどの大富豪コレクターとガゴシアンギャラリーを経営するラリー・ガゴシアンや、ハウザー&ワースギャラリーを経営するイワン・ワースマヌエラ・ワース、ウルスラ・ハウザーらのギャラリスト達です。

 これらの世界アート界を牛耳る人物は合計100人ほどと言われています。(巨大化する現代アートビジネス 紀伊国屋書店)

 彼らが新たに作家を見いだしたり、作品を購入する最も重要な場所がマイアミやサンパウロ、バーゼルなどのアートフェアです。
 (参考 世界最大級のアート・フェアなのに、超閉塞的なアート・バーゼルのお話

 この『アート関係者100人の村』の評価基準・価値観に対して公然とは反抗し批判しているのが、今世界で最も人気の高い路上アーティスト、『バンクシー』です。

 バンクシー Pillow Fight 画像「アート業界はこの世に存在する最大の冗談!」(Banksy's Bristol Home Seet Hone p90 作品社)と豪語するバンクシーは現代アート業界に対してこう言っています。

 「彼らが見るアートは、選ばれたひと通りの人々よって作られる。
 わずかな人々が創造し、推進し、購入し、展示し、そしてアートの成否を決める。
 世界でほんの数百人の人間だけがリアルな発言権を持っている。
 美術館へ出かけていく君は、
 大金持ちのトロフィー棚を眺めている旅人にすぎないのだ」

 アートコレクターに対して

 「いや、チャールズ・サーチに売る作品はないよ。
 彼に作品を売ることはこれからも決してない。」

 
 (BRUTUS CASA  バンクシーとは誰か? p52(株)マガジンハウス)

 前回、お話した通り、顧客は白人富裕層なので彼らの気に障る主張をしている作品は評価されません。

原爆の図 丸木夫妻 例えば、広島・長崎の原爆展はアメリカの退役軍人の反対で未だに展示できませんし、丸木夫妻の『原爆の図』も同様です。

 作品を購入するのは白人富裕層であり成功したベンチャー起業家や金融エリート達ですが、特にベンチャー起業家や金融エリートはアートに対して造詣が深いわけではない。

 ですから、プロの購入アドバイザーに助言に従って購入することが多いのです。

バスキア 写真 ジャン=ミシェル・バスキアの作品を123億円で購入した前澤友作氏も、村上隆と最初にフランスで売り出したギャラリー・ペロタン東京の中島悦子さんを購入アドバイザーとして雇っています。

 ちなみにバスキアの作品は日本の現代美術家、宇佐美圭司が過去のアメリカ現代美術はガラクタの集積かもしれないと否定的に述べた
あとに

 「こんなものから我々は再出発しなければいけないのか?」(『20世紀美術』1994年 宇佐美圭司著 岩波新書 )

とバスキアの作品を批評しましたが、バスキアについては私も彼の意見に同感します。

 『麻薬に押しつぶされそうになりながら耐えている自分の表現』というのは、やはりやり切れない。

 アート作品のコレクターを何とも哀れに思うのは、村上隆がTVの『カンブリア宮殿』で話した通り、

 「なぜ、お金持ちが大金でアートを買うのか?実は成功した起業家などのお金持ちは精神が病んでいるんですね。

 その心の穴を埋めるために作品を購入するのです。

 ええ、言ってみれば金持ちの戯言ですよ。」という状況であり

購入アドバイザーはアーティストやギャラリストに『どんな作品なら金持ちが購入しそうか!』をアドバイスするという。

 そして購入した金持ちはでっかい倉庫を購入したり借りたりしてアートコレクションを陳列し友人の金持ちを呼んで

 「なあ、俺って知的だろう?こんな知的な俺は素敵だろう?」

 と自慢する。

 しかし、それはガラクタの集積かもしれない。
 
 少なくとも所有者の本人はちっとも良いとは思っていない。

 これでは、金持ちは永遠に救われませんよね。

 延々と特効薬の代わりに偽薬を掴まされる神経症患者のようなものです。

 

 ジョンレノンはこう言い残して殺されました。

 「俺はもう見抜いたんだ。この世は偏執狂の権力者が支配しているんだ。

 だから、見抜いて皆に伝えている俺がもうじき殺されるのさ」

 ですから、現在世界に広まる貧富の格差資本主義の矛盾西洋文明・白人文化・科学信仰の限界をまともに扱う作品は受け入れらづらいのです。

 これは、ここ30年で台頭してきた中国美術にも言えることです。

 

ザオ・ウーキー 74憶円で落札された絵画
ザオ・ウーキーの73億円で落札された作品

 現在、中国は香港など全国各地に強大な現代中国美術作品を収納する美術館を建設中ですが、体制側を批判するアイ・ウェイ・ウェイなどの作品は絶対に収納しないでしょう。

 
 とするなら、美術館に集められた有名作家の作品を、価値が無いとは決めるつけることは出来ませんが手放しで信用することもできませんよね。

 では、どういう風に美術を評価し購入すれば良いのか?

 言うまでもなく、評価するのはあなたなのです。

あなたの感じ方、あなたの心に正直になることです。

 例えば、音楽の場合、ビートルズやX Japanの曲に感動して購入するのは楽器店の店員さんや音楽評論家に勧められたからですか?

 違いますよね。

 現代美術・アートも同じです。

 まず何よりも作品に直観的・直感的に感動する眼と心を大切にすること。

 そして、機会を見つけてとにかくたくさん、できれば原画を観る事です。

 そして、一度は有力ギャラリーで扱われていてう有名アーティストや台頭してきた新人アーティストの作品も。

 さらに、カンディンスキーやパウル・クレー、オディロン・ルドン、梅原龍三郎、安井曽太郎などの巨匠の作品も、なぜそんなに高く評価されるのかを長期に渡ってじっくり考えてほしいと思います。

 名作や巨匠の作品の真価はそう簡単に分かるものではなく、何年も考えていて突然閃いたように分かる経験を私は数多くしてきました。
 
 これらの経験の数に比例して鑑識眼が養われていくことは間違いないです。

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ここ数年の、海外で最も高く評価されているアートは、アメリカの警察官による黒人暗殺事件や、伊藤詩織さんの強姦逮捕未遂事件に端を発した『Me Too 運動』、ウクライナやミャンマーなどの内紛事件、香港の民主主義弾圧などと表裏一体となる表現活動です。

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