版画の種類を解説しました。各種版画の有名作家と代表作についても掲載し解説しています。 このページでは、版画の種類と芸術作品としての価値・価格について説明します。
版画の種類
市販され流通している版画には主に以下のような種類があります。
凸版画(とっぱんが)
◆ 木版画
紙に印刷したい部分だけ残し、そこに絵具を付け紙を載せバレンなどで紙をなぞって印刷します。
浮世絵は木版ですね。江戸時代の浮世絵はなんと人間の髪のような細い線まで木版で表現しているのです。
凹版画(おうはんが 直刻法)
◆ドライポイント(銅版画)
ニードルという鉄筆で銅板に描いてゆく技法です。この溝に絵具を置き紙に印刷します。
彫った後に描線周辺にできる銅板の削りカスなどは、あえてそのままにしておくため、描線ににじみができます。
このにじみが画面上に陰影を作り、情緒ある作品になる技法です。
代表的な作家に『エーゲ海に捧ぐ』で芥川賞を受賞し東京国際版画ビエンナーレ展で受賞して一夜にして世界的な美術家となり、TVでもタレントとして活躍した池田満寿夫がいます。
◆メゾチント(銅版画)
最初に細かい線と傷を版全体に付けてから、そこにスクレーパーやバニッシャーで描線を削っていく技法。
これが非常に柔らかい印象のバックを作りあげます。
削って磨いた部分の強弱によって、さまざまなトーンの明暗・濃淡を表現できますが、大変な労力と時間、高度な技術を必要とする技法です。
代表的な作家に、『メゾチントのピカソ』の異名を持ったメゾチントの第一人者浜口陽三がいます。
凹版画(蝕刻法)
◆エッチング(銅版画)
銅板に防蝕剤(グランド)を塗った後、ニードルで防蝕剤を削りとって線を描きます。
腐蝕液につけておく時間や濃度などによって線の強弱を作れるので、繊細で微妙な描線を実現できます。
銅板を直接削るのではなく、防蝕剤(グランド)を削るため、かなり自由に描画することができるので、繊細な写実力に富んだ作品を作ることができます。
代表的な作品としてはパステル画家のオディロン・ルドンが「我々を揺さぶるフーガのこみいった急調子のような線による、音楽同様の暗示的な芸術作品」(ルドン著 『私自身に』p19 みすず書房 )と激賞したアルブレヒト・デューラーの「メランコリア Ⅰ」(写真)があります。
◆アクアチント
「アクアチント」は、銅板上に松ヤニの粉末を防蝕剤としてまき、熱して定着させた後、描線する技法です。
松ヤニの粒子や腐蝕時間によって雰囲気が変わってくるため、面の濃淡がくっきりと表れます。
黒の濃淡や色彩の濃淡もはっきりするため、墨絵や水彩画のような版画が作れる技法です。
平版
「平版(へいはん)」は、版の上に「リトクレヨン」などの油脂を含んだ画材で線を描き、化学的な製版処理をして印刷します。
版に彫ったり腐蝕したり削ったりという作業がなく、版面が平らなままなので、作家がイメージした通りの絵が版画となる技法です。
◆リトグラフ
「リトグラフ」は、石灰石の平面にクレヨンなどで絵を描き、少量の硝酸を加えたアラビアゴムを塗って版を作ります。
油分を含むクレヨンなどで描いた部分にだけ油性のインクがつき、印刷ができます。
多色刷の場合は、下絵の色を分解して色板を複数制作し、順番に重ねて刷っていきます。
描いたままの線がそっくり刷られることになり、画家の思ったものとかなり近い版画があらわれることから、ピカソやシャガール、マチスなどが好んで手掛けた技法です。
百貨店で平山郁夫や千住博の版画を販売することも多いですが、このような有名な画家が自筆で名前と通し番号をサインして販売する作品の多くは、このリトグラフです。
無意識の世界や文学的空想、深い思想の世界を描いたパステル画家、オディロン・ルドンは中年期にパステルを使用して天上的な色彩の作品を描くようになるまでは、写真のようなモノクロームのリトグラフ作品を数多く残しています。
写真は『ゴヤ頌』《4 胎児のような存在もいた》 1885年 リトグラフ、紙 神奈川県立近代美術館蔵です。
孔版画
孔版画(こうはんが)は版に細かい孔(穴)があり、版上に置いたインクに圧をかけて刷る技法です。
上からインクを注ぎますから、原画が左右反転しない点が非常に特徴的。
昔、学校の先生がテストなどを印刷したガリ版も孔版画ですね。
また刷るときに高い圧力を加えなくてもいいため、たくさんの版やインクを重ねることができます。
「シルクスクリーン」は、木枠に張った絹(シルク、ナイロンのこともあります)の上に穴を作り、版を作ります。
穴の部分にだけインクを落として刷るので、インクの彩度が高く、晩年のマチスの切り紙絵のように単色の色面を実現するのに向いています。
代表的な作家は写真のマリリンモンローなどを描いた、言わずと知れたアンディ・ーウォーホールですね。
彼はドルマークの版画を作り、自分がする版画はお札と同じだと豪語して人気を博しました。
デジタルプリント
◆ジークレー版画
ジークレーとはフランス語で吹き付けて色を付けるという意味です。
簡潔に言うと油彩やアクリル画、パステル画などの原画をデジタルカメラか高性能の大型スキャナーで読み取り、顔料プリンタで紙やキャンバスに印刷したものです。
顔料とは日本画の岩絵の具がそうなように、宝石のような岩石を細かく砕いたものです。
元が岩石なので日光による変色に強いのです。私はA3版までのジークレー版画はCANON PIXUS PRO 10プリンタで印刷してますが、耐光性はメーカー発表で200年となっています。
(写真は私のジークレー版画で『火の鳥 フェニックス』原画はパステル画です)