複製芸術の音楽が、デジタルデータのコピーで無料で入手できるようになり、かつてのようにレコードやCDの売上で大儲することができなくなってすっかり衰退してしまいましたが、逆に『一点物』の希少性ということもあり現代アートが音楽に変わって世界的なブームとなっています。
イギリスのダミアン・ハーストが「イギリスではロックスター並みの人気」と言われた頃には、この潮流が確定的になったと思います。
アメリカや日本の株高などで、富裕層が持て余すほどの資産をもち、株や不動産そして美術作品へと投資しています。
日本ではIT関連で成功した経営者がアート作品への投資をし、さらに投資できるだけのお金を持った多くの人が作品を購入しています。
東京芸大を筆頭とする有名芸大・美大の卒展は大人気で、初日に半数の学生の作品が売れ完売も珍しくないとか?
東京で開かれるアートフェアも同様の人気だそうです。
購入者の多くは「値上がりが楽しみである」とか「今もっている作家の作品は、値上がりして昔の値段では買えません」と嬉しそうに話す人もいるようです。
(参考サイト:「時価100万円越えの『現代アート』が飛ぶように売れる。絵画投資に注目が集まる一方で危惧する声も!」)
はたして現代アート作品は投資として有望なのでしょうか?有望だとしたらどのような作品を購入すれば良いのでしょうか?
好きな作品、高く評価する作品だから買うのが基本。金儲けが目的は本末転倒
結論から言いましょう。
現代アートは金儲けのために買うものではないです。
もし投資目的なら痛い目に会う確率は非常に高い。
なぜならば、先の参考サイトでもミズマアートギャラリーの三潴末雄さんがおっしゃる通りで、歴史に作品が残るアーティストは100万人に人だからです。
日本でもヨーロッパでも、なぜかその国を代表する画家は二人かせいぜい三人です。
フランスのピカソとマティス、ドイツのカンディンスキーとクレー、日本の梅原龍三郎と安井曽太郎。アメリカのロバート・ラウシェンバーグとフランク・ステラそしてもう一人ジャスパー・ジョーンズ。
日本の現代美術だと村上隆と奈良美智、それに会田誠。
まだ、私はその中に入れてないのが残念ですが(笑)、私は死ぬまでの入れるつもりでいます。
これらの巨匠の特徴は、歴史上での表現様式の革新・イノベーションを成し遂げたことです。
そして今の述べたことに当てはまらなかった時代というのは無いんですね。
ピカソの再来と言われたスーパースターもイタリアの3Cと言われたスターも美術界から消えました。
私は今年で還暦、60歳になりましたが、仏教学者の鈴木大拙が言ったように「長生きはするもんだ。色んなことが分かるようになるから。
」といたように、様々な人間の浮き沈みや人生の結果を見て来ました。
私の人生の中で多くの現代アート界のスターが栄光から転落していきました。
まず、1980年代に新表現主義という名で画商レオ・キャステリーの弟子のメアリーブーンが売り出したジュリアン・シュナーベル。
当時評価は真っ二つに割れ「ピカソ以来の天才画家」というものと「メアリー・ブーンが仕掛けた紛い物」というものがいて、ニューヨークのギャラリーやカフェア中で大論争が繰り広げられました。
歌手の小川知子さんの夫で千住博をベネチア・ビエンナーレの代表に選らんだ伊藤順二さんが著書の「現在美術」(パルコ出版/1985)で
「シュナーベルはメアリーブーンがでっち上げたスターなどではない。実物のあの分厚さと重厚感、圧倒的な迫力は本物だ!」と絶賛していました。
私の評価は「ただアメリアのアーティストだからか、作品がやたらにでかいようで、コンクリートに皿を埋め込んだ貝塚のような作品のどこが良いのかさっぱり分からない。」というものでした。
(参照「近代絵画の4つの基準でジュリアン・シュナーベルを再考する」)
数年前に「そういえばシュナーベルの名前はとんと聞かないけど、最近はどうしているのだろう?」と調べたら、だいぶ前に一気に栄光は陰り、本人は映画監督に転身しており、メアリーブーンは脱税で逮捕され実刑を受けていました。
当時、イタリアの3Cというアーティストがヨーロッパ出身アーティスト代表ということで同様にスターでしたが、この3人もフランチェスコ クレメンテだけが生き残ったとも言われましたが、今は話題になる事もほとんどありません。
ダミアン・ハーストが企画したフリーズ展で一気に欧米アート界の革命児・主流となった10人ほどのYBAことヤング・ブリティッシュ・アーティスト達も、村上隆は「ハーストだけが生き残った」と言っています。
日本では何といっても1987年に第18回現代日本美術展佳作賞を受賞したのを手始めに安井賞、日本の新人現代アーティストの登竜門だったVOCA賞と立て続けに受賞した福田美蘭。
著名なグラフィックデザイナーの福田繁雄を父に持つ彼女は東京芸大油画科を現役で入学卒業して、現代美術の画商の時代が来る前のコンクールが力を持ち、受賞者を西村画廊などがスカウトしていった時代で、彼女以外に若手アーティストはいないのか?と思うほどの注目を集めていました。
なぜ、そんなに注目を浴びたのか?恐らくですが彼女の毛並みの良さに東京芸大という学閥、そして何よりもその頃のアメリカはリミックスなどの手法を使うシンディー・シャーマンなどが代表的な作家である『シミュレーショニズム』の全盛期で、それを確信犯で直輸入したのが彼女であり森村泰昌だったのです。
それを本江邦彦氏を筆頭とする評論家が『海外の評価は間違いないものだ』という観念から絶賛したのでしょうねえ。
ということは二番煎じですから、ネタバレは必至でどだい無理があるわけです。
それで、千住博がベネチア・ビエンナーレで受賞してNHKで世界と日本の現代アートを紹介する番組の解説をした後、村上隆の『「My Lonesome CowBoy」』がクリスティーズで16億円で落札され、奈良美智がいくつもの本の装丁で若い人達に人気となるころには、完全に勢いが逆転して福田美蘭の作品は売れなくなっていったように思います。
ある美術雑誌のインタビューで「VOCA展などで受賞した巨大な2階建てのビルほどもある作品などを大きな倉庫に保存してあり、その費用が高額なのだ」と語っていました。
このように、その時代のほとんどのスター画家は他の人に地位を取って代わられたのです。
好きな作品を買おう。値上がり額が少なくてもそれで良いのです。
福田美蘭の栄光の時代に、同じくVOCA展で受賞し注目を浴びた小林孝亘という現代アーティストがいます。
東京画廊の山本代表に始めて会った1995年「あなたの画風に一番合っているのは西村画廊だから。私からだと言ってこのDMを持参して西村さんに会いに行きなさい。」と言われて渡されたのが西村画廊の小林孝亘展の招待ハガキでした。
その日のうちに西村画廊に行くと小林孝恒展をやっていて、ご本人がお客さんに制作で苦労した点などを熱心に説明していました。
その時の一番大きな作品が冒頭の作品です。
これをきっかけに私は小林孝恒の『物を大きな立体の塊として把握する3次元的デッサン法』の優れた点に気付き、に大きな影響を受けマティスの影響で2次元にこだわった空間把握とデッサンに囚われていたスランプから脱出して自分の表現スタイルを確立することが出来たのです。
個展では、小品の黄色いさらに蟻がついている作品が30万円ほどだったと思いますが、どの作品も非常に感動し、お金があって保存できる倉庫があるなら全部買いたいと思いましたが、先立つ物が無かったのです。
私が行った時にはほとんどの作品が完売目前でしたが、今でも個展の前にほとんど全作品がコレクターに売れてしまうそうで、今ならどれぐらいの価格でしょうかねえ。
小林さんは村上隆や奈良美智のように海外で有名なアーティストにはなっていませんが、市場に原画はほぼ出ないので20倍ぐらいになっているのかなと思います。
投資としては奈良・村上の作品を買った方が良かったでしょう。
でも、それで良いのだと思います。
私の絵を観る目はやはり、自分の自負通り間違っていなかった。
西村画廊とミズマアートギャラリーの契約作家には、今でも投資としても最も買うべき作家が多いと思います。
ただし、あなたが実物を観て感動するならということです。
当然、将来的に評価が上がらない作家もいると思いますよ。