どうしたら作品の主題や発想を次々と生み出せるのか?

前回は『芸術とは何か?絵画とは何か?』についてのお話でしたね。

今回は、それでは芸術が表現であるなら、

『表現すべきもの、そのアイデア・発想がどうやったら手に入るのか?』

についてお話します。

以前、私は観たものを描く段階から、想像したもの、

思索したものを描く段階に抜け出さなくてはいけないと話ましたね。

その、思想がごく個人的なもので普遍性がない。

つまり。広く人間に当てはまるものでないほど一般的には

高く評価されないでしょう。

人類の四大教師と言われるイエス・キリストや

仏陀、孔子、ソクラテスの思想は普遍性を持つからこそ

2500年もの間、人類に大きな影響を与えて来たのです。

もちろん、鴨居怜の作品が日本の大企業の重役に高値で売れるのは、

普遍性というより、『縁故と違法行為、忖度、不道徳に染まって

変わってしまった醜い自分』というものの表現に彼らが共感するからで、

これは少数の人間には高い価値を持つのです。

最も、今の時代をみると考えてみると鴨居怜の作品は

歴史を越えて多くの人類に普遍性を持つといって良いように思います。

実体験からいうと、優れた新しい思想を考え付くには、系統だった

良質な読書が必要です。

精神分析医のC・Gユングはこのような読書をするかどうかが、

天才かどうかを見極める大きな判断基準だと言っています。

良質な読書とは、古今東西の名著を読むことです。

しかし、『良薬は口に苦し』ではないですが、名著は難解なものが多い。

ですから、大学一年生から、私はこれらの膨大な数の

名著を理解すべく、朝から晩まで格闘していました。

アンダーラインと書き込みを本にもの凄くするので、

何回も買い替えた本も多いです。

易経とかゲーテの『ファウスト』、スタンダールの『恋愛論』、

ユングの『人間と象徴』などはその一例ですね。

次に、欧米のアートの評価基準が、『いかに西洋美術史上に新たな

革新・イノベーションを起こしたか?』である以上、バンクシー

のように『欧米の現代アート100人村』に対してアウトローで

生きるにせよ、西洋美術史と日本美術史は完全に理解しなくては闘えません。

村上隆がスーパーフラット理論の提唱で伊藤若冲や鳥獣戯画、手塚治虫に

言及したのも美術史を深く正確に理解していたからです。

ちなみに、村上隆は東京芸大美術学部で最初の博士号取得者なのですぞ。

私は西洋美術史は高階秀爾の『西洋美術史 上下 岩波新書』

で学びましたが、この本は薄いにも関わらず、独特の気取った

(いや本当に)諧謔(かいぎゃく=難解)な文章で、

わかりづらい事この上ない。

例えばオディロン・ルドンを

『魂の神秘の探究者・幻視者』と言っていますが

『豊かな高い想像力に恵まれたフロイトが発見した無意識の探究者、研究者』

と言えばすんなりわかるものを、全ページこんな感じで進んでいくので、

理解には七転八倒の苦労をしました。

今ならもっと良い本があると思います。

それでも手に取って読む価値はありますね。こ

れだけ整理されたまとまった西洋美術史の本は無いと思うので。

◆ここ数年の欧米アート界の動向。世界の政治情勢と一体化していくアートシーン。

最後に、最近5年間ぐらいの『アートの世界に影響を及ぼした

100人の人物』ランキングで世界No1となったアーティスト

を紹介しておきます。

一人目イ・ウェイウェイ(艾未未)

 北京オリンピック『鳥の巣』の設計者であり、

四川大地震の中国政府への対応などをアーティスティックに抗議して、

当局から暴力を受けたり、拘束、自宅軟禁などを受けたりしているアーティストです。

二人目は、ヒト・シュタイエル

 彼女は本の出版やビデオアートなどで、スイスにある

アートの100人村倉庫保管作品への課税免除問題』や、

テロリズム、ロシアのウクライナ侵攻のような各国での

紛争への抵抗や回避のための活動などをアーティスティック

に行っています。


 まるでロシアのウクライナ侵攻を予言するような

活動も行っており、自分の論文もアート作品として

成立するということを示した点で画期的です。

さらには、伊藤詩織さんの山口敬之によるレイプ逮捕中止事件

が発端となった『Me Too』運動やジェンダー問題を主題としたアートが

非常に高い評価と関心を集めていますし、デレク・チョーヴィンによる

ジョージ・フロイド黒人殺人事件などへの人種差別抗議と連動して、

黒人女性の魅力をテーマにする黒人アーティスト アモコ・ボアフォ

セクシュアル・マイノリティの若いブラウン系男性の想像上の生活を描く

サルマン・トゥール (Salman Toor)らが台頭しています。

 どうですか?欧米のアートシーンのトップランナーは新聞やSNSで

話題となる政治の日常的な事件と表裏一体のように連結しています

 つまり、美術は決して日常生活や政治・経済、政治体制と無関係な

アミューズメントやエンターテイメントだけではないということですね。